劇団四季のミュージカル「壁抜け男」のDVDが発売されたので、鑑賞。
ミュージカル「壁抜け男」は、フランスの作曲家ミシェル・ルグランの作ったミュージカル。
普通の平凡な公務員のデュティユルが、ある日突然壁を抜ける能力を持ってしまうというお話し(非常に簡単な説明ですが…)
ロイド=ウェバーとかディズニー系のミュージカルのような大掛かりな仕掛けや、ハッタリの聞いた大げさなメロディーなどは少ないですが、素朴で噛めば噛むほど味が出てくるような、後を引くミュージカルです。
作品も役者さんも素晴らしいのに、カメラワークが最悪。
このDVDはカメラワーク以外は、素晴らしいです!逆にいうと、カメラワークは最悪です。
特にソロの時に画面が斜めになったり、左右に動いたり、音楽に合わせて急にズームアップしたり、とにかく落ち着かない。
とにかくひっきりなしにカメラが動く場面があって、ややもすると映像に酔って、気持ち悪くなってしまいそうです。
映画などではこのようなカメラワークはありだと思うのですが、これは舞台作品だから、そこまで映像が主張したり、演出を加える必要はないのでは?と思います。
「生で塩をちょっとかけるだけで十分に美味しいのに、どうして火を加えて、マヨネーズとケチャップとソースかけたの?」という感じです。
せっかくの良い作品なのに、残念。
でも、それ以外はとても素晴らしいDVDです。
役者さんたちも安心して観ていられるし、ルグランの音楽はバラエティに富んでいて飽きることがないです。
壁抜けの仕掛けも、ビックリするような幻想的なものがあったと思うと、「それはギャグだろう」とツッコミを入れたくなるようなものもあり、その仕掛けを楽しむのもアリかも。
ストーリーは、分かりやすいようで奥が深く、皮肉なども込められていて、ちょっと理解できない部分もあり。「キャッツ」のように、様々な生き方の人を応援しているような感じもします。おそらく観る人の視点や立場によって、様々な捉え方ができるのかもしれません。
いろんな見方ができる、後を引く小品。
私が初めてこのミュージカルを観たのは、2000年の東京公演でした。
ロイド=ウェバーやディズニーのようなミュージカルに慣れていた私には、あまりにも薄味でサラッとしていて、ちょっと物足りなさを感じました。
でも観終わった後に内容を咀嚼したり、CDを聴いたりしているうちに、その奥深さにハマって、「また観たい!」と思っていました。
この作品でいうところの「壁」というのは、物理的な壁だけではなくて、心理的な壁も意味していると思います。
この作品に出てくる登場人物は、仕事で報われなかったり、奥さんにうだつが上がらなかったり、何かしらの壁を抱えている人が多いです。
そこに壁を抜けられる能力を持ったデュティユルが現れるのですが、彼に関わると、ちょっとだけ壁を越えられる(あるいは忘れる)ことができて、少し幸せになれる。
壁を抜けたり越えたりする力がある人は、他の人も幸せにできるということ?主人公を診察した医師が「女はダメだぞ」と言うのは、「女にハマると、もっと越えられない壁ができる」という皮肉?
ラストはハッピーエンドという感じではないですが、それでも「人生は最高」と歌い上げるのは、調子に乗って羽目を外してしまった主人公への皮肉のようにも聞こえるし、良いことも悪いこともあるのが人生じゃないの?という意味にも聞こえる。
一つのシーンも全く反対の見方ができたり、「あれはどんな意味なんだろうか?」とか考えると、それを確かめるためにまた観に行きたくなるという、不思議な魅力があるミュージカルですね。
こんな作品が、もっと上演されてほしいと思います。